向こう3年間に予想される財政悪化に加え、一般政府債務が高水準で増加していることを反映し、格付け会社フィッチ・レーティングスは、8月1日、長期外貨建ての米国債の格付けを最上級の「AAA」から「AA+」に引き下げました。これに対して、イエレン米財務長官は、1日、「フィッチ・レーティングスの決定に強く反対する。きょう発表された変更は恣意的で、古いデータに基づいている」と声明で述べました。そして、イエレン米財務長官は、翌2日も、 今回の米国債格下げについて、低水準の失業率やインフレ鈍化、継続的な成長や力強い技術革新など、強靭な米経済情勢が考慮されておらず、「全く正当な根拠がない」と改めて異論を唱えました。
ですが、日米金融市場では、今回の格下げをきっかけに、株式・債券共に売り圧力が強まり、さながら「フィッチ・ショック」の様相を呈しました。2日の日経平均は前日比768.89円(2.30%)安、3日は同548.41円(1.68%)安と、2日で1317.30円も下落しました。流石に4日は、押し目買いや売り方の買戻しが入り、同33.47円(0.10%)高の32192.75円と、小幅ながら3日ぶりに反発しました。
一方、NYダウは、2日は前日比348.16ドル(0.98%)安、3日は同66.63ドル(0.19%)安の35215.89ドルでした。また、ナスダック総合株価指数は、2日は同310.46ポイント(2.17%)安、3日は同13.74ポイント(0.10%)安の13959.71ポイントでした。ナスダックの方がやや下げがきつくなっているのは、米長期金利が上昇しているからです。3日の米10年物国債利回りは前日比0.09%高い4.17%で取引を終えました。一時は4.19%と、連日で約9カ月ぶりの高水準を付ける場面がありました。
一方、日本の長期金利も上昇基調です。3日の新発10年物国債の利回りは上昇し、前日比0.020%高い0.645%で取引を終えました。一時は0.655%と2014年1月以来、9年7カ月ぶりの水準まで上昇する場面がありました。また、4日の国内債券市場では、新発30年物国債利回りは前日比0.040%高い1.630%と、1月13日以来およそ7カ月ぶりの水準に上昇する場面がありました。ちなみに、7月28日に日銀が決めたYCCの運用柔軟化で、長期国債先物への海外投資家の売りが膨らんでいます。
ところで、昨年11月28日の「日銀の国債買い入れは格付けの支え、次期総裁も承知のはず-フィッチ」と題したブルームバーグの記事によれば、「フィッチ・レーティングスのクリスヤニス・クルスティン・アジア太平洋地域ソブリン格付部門ディレクターは、イールドカーブコントロール(YCC、長短金利操作)に伴う日本銀行の大規模な国債買い入れは、日本の格付けを下支えする「重要な役割を果たしている」との認識を示した。」とのことです。このため、今後、YCCの更なる修正や撤廃ということになると、フィッチなどの格付け機関による「日本国債の格下げ」が強く意識されることになりそうです。
ただし、日本国債に関しては、日銀が発行済み国債の50%以上、残る大半を銀行や生損保など国内機関投資家が保有しており、昨年末時点で海外投資家の保有比率(国庫短期証券除く)は6.5%にとどまっています。このため、仮に格下げがあったとしても、日本国内では、金融危機的なイベントにはならないとはみています。そうは言っても、日本の債務残高対GDP比は先進国で最も高い258.2%です。金融危機は非常に高い確率で回避されるとはみていますが、短期的な「国債安・株安・円安のトリプル安」が生じるともみています。
それはさておき、来週は4~6月期の決算が社数的にピークとなります。具体的には、7日は179件、8日は227件、9日は408件、そして、10日は853件です。このため、「決算プレー」が活発に行われることでしょう。ただし、再来週に関しては、海外勢が夏季休暇入りしていることに加え、国内勢もお盆休みで本格的に夏季休暇入りしていき、例年通り「夏枯れ相場」になっていくとみています。
日経平均については、7月12日の31791.71円~8月1日の33488.77円のゾーンでの「もみあい」がメインシナリオです。ボリュームの盛り上がりが期待できないため、方向感の乏しい相場が続くとみています。ですが、好材料でも、悪材料でも、サプライズを伴う材料が飛び出すと、一方方向に値幅を伴った上昇・下落が発生しやすいことには注意が必要です。最後に物色に関しては、日米共に長期金利が上昇傾向のため、高PERのグロース株は避けて、低PBR・低PER・高配当利回りのバリュー系大型株に狙いを絞ることをおすすめします。
2023年8月4日
相場の見立て・展望(8月4日付)
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
カブ知恵代表取締役。
1989年早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。前職のフィスコ(証券コード3807)では執行役員。フィスコを代表するマーケット・アナリストとして活躍。退職後に同社のIPOを経験。2005年にカブ知恵を設立。歯に衣着せぬ語り口が個人投資家に人気。雑誌「宝島/夕刊フジ/ZAIオンライン/トレマガ/あるじゃん/ダイヤモンドマネー/マネーポスト/日経ビジネス/エコノミストマネーザイ」をはじめ多方面に活躍中。
- 証券会社のディーリング部に在籍し、株式売買の経験があるものを証券ディーラーと呼称しています。