8月10日の日経平均は反発し、前日比269.32円(0.84%)高の32473.65円でした。「対主要通貨に対する円安」と「インバウンド消費」への期待から、株式が買われました。
10日の東京外国為替市場では、円売り・ドル買いが優勢となり、1ドル=144円台前半まで円が売られました。7月の米CPIの市場コンセンサスは、前年同月比3.3%上昇と、前月から伸びが加速する見通しです。実際の発表数値が、市場予想を上回る伸びとなれば、FRBによる、もう一段の利上げが現実味を帯びるため、対ドルでの円売りが加速したのです。また、円は対ユーロでも下げ幅を広げて、1ユーロ=158円前半と、2008年9月以来およそ15年ぶりの円安・ユーロ高水準をつけました。低金利の円を売ってユーロを買う動きも加速しました。この円安が、自動車などの外需関連株の買い材料になりました。
一方、前日9日に一部メディアが「中国政府が日本行きの団体旅行を解禁する方針」と伝え、その後、中国当局が10日午前、同日から日米欧や韓国など約80カ国への団体旅行を解禁すると発表したことで、9日、10日と連日で、百貨店、鉄道、ホテル、空運などのインバウンド関連銘柄が買われました。
ただし、中国問題が懸念されて、日経平均の上値は重い状態が続いています。まず、中国の輸入が低迷しているからです。7月のドル建て輸入額は前年同月を12.4%下回りました。5カ月連続のマイナスです。次に、中国国家統計局が9日発表した7月のCPIは前年同月比0.3%下落と、2年5カ月ぶりに低下しました。消費者の間でデフレ心理が広がる可能性が指摘されています。そして、米政府は9日、米国の企業・個人による中国への投資を規制する新制度を導入すると発表しました。先端半導体やAI、量子技術を対象にします。政府に届け出を義務付け、中国の軍事開発などに結びつく案件は禁じます。このように、米国の対中規制がモノだけでなく、カネの流れにまで発展しました。これを受け、駐米中国大使館の報道官は「繰り返し深い懸念を表明しているにもかかわらず、米国は新たな投資規制に踏み切った。中国は非常に失望している」と述べたとのことです。
「中国の景気低迷」、「中国経済のデフレ化懸念」、そして、「米中対立激化」の3重苦です。この状況は、中国で事業活動を行う企業群への逆風と考えます。このため、中国関連銘柄群の株価は、しばらく冴えない動きを余儀なくされそうです。
なお、来週に関しては、海外勢が夏季休暇入りしていることに加え、国内勢もお盆休みで本格的に夏季休暇入りしていき、例年通り「夏枯れ相場」になっていくとみています。日経平均については、7月12日の31791.71円~8月1日の33488.77円のゾーンでの「もみあい」がメインシナリオです。市場参加者が激減し、ボリュームの盛り上がりが期待できないため、膠着感の強い相場が続くとみています。お盆休みは無理して売買せず、発表された決算を十分吟味して、お盆休み明けに狙う銘柄の選定・分析をすることをおすすめします。基本的には、来週は「休むも相場」だと思います。
2023年8月10日
相場の見立て・展望(8月10日付)

- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏

- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
カブ知恵代表取締役。
1989年早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。前職のフィスコ(証券コード3807)では執行役員。フィスコを代表するマーケット・アナリストとして活躍。退職後に同社のIPOを経験。2005年にカブ知恵を設立。歯に衣着せぬ語り口が個人投資家に人気。雑誌「宝島/夕刊フジ/ZAIオンライン/トレマガ/あるじゃん/ダイヤモンドマネー/マネーポスト/日経ビジネス/エコノミストマネーザイ」をはじめ多方面に活躍中。
- 証券会社のディーリング部に在籍し、株式売買の経験があるものを証券ディーラーと呼称しています。