米国の労働需給の緩和を示す指標の発表が相次ぎ、FRBが9月のFOMCで政策金利を据え置くとの観測が強まり、米長期金利の上昇が一服しています。このため、高PERのグロース株が買い戻され、日米株式市場共に、堅調に推移しています。
8月29日に発表された7月の米雇用動態調査(JOLTS)では、非農業部門の求人件数は882万7000件と、2021年3月以来の低水準となりました。市場予想の946万5000件を下回りました。また、翌30日に発表された8月のADP全米雇用リポートでは、非農業部門の雇用者数が前月比17万7000人増と、市場予想の20万人増を下回りました。これらの弱い指標を受け、8月31日のNY債券市場で、長期債相場は小幅に4日続伸しました。米10年物国債利回りは前日比0.01%低い4.10%で取引を終えました。
そして、この長期金利上昇一服を好感する格好で、8月31日のNYダウは5日ぶりに反落したものの、グロース株比率の高いナスダック総合株価指数は5日続伸し、前日比15.66ポイント(0.1%)高の14034.97ポイントと、約1カ月ぶりの高値で取引を終えました。8月31日のFear & Greed Index(恐怖・強欲指数)は、53で「Neutral(中立)」でした。米国株の基調が強いのですが、過熱感は全くありません。
また、先行き景気悪化懸念が強まっている中国では、8月下旬に、中国当局が市場活性化策を相次いで打ち出しました。中国証券監督管理委員会は8月18日、証券取引所での取引時間の延長や企業の自社株買いの規制緩和を検討すると発表しました。27日には需給悪化要因になりうるIPOについて、ペースを段階的に抑制すると発表しました。そして、中国財政省と国家税務総局は、28日から株式の取引にかかる印紙税を引き下げました。
ちなみに、中国では、7月の中央政治局会議で「資本市場を活性化させ、投資家の信頼を取り戻す」と明言しており、政府は資本市場の救済に明確に舵を切り始めている様子が窺えます。なお、今回の一連の株安対策の効果が発現し、香港株式市場や上海株式市場で、中長期の上昇トレンドが発生するかどうかは、現時点では5分5分とみています。なぜならば、中国不動産最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)が、8月30日発表した2023年1〜6月期連結決算は、最終損益が489億元(約9800億円)の赤字となるなど、不動産不況が進行中だからです。ですが、今回、対処療法的な株安対策が講じられたことで、株式市場については、短期的には、底入れしたとみてよさそうです。
このような外部環境の改善を受け、9月1日の日経平均は5日続伸し、終値は前日比91.28円(0.28%)高の32710.62円と、8月1日以来、1カ月ぶりの高値を付けました。5日移動平均線(1日現在32412.08円)、25日移動平均線(同32252.98円)共に上回っています。外部環境が改善し、短期的な日本株の調整が終了した可能性が高そうです。よって、「押し目買い・噴き値売り」を基本戦略にして、市場参加することをおすすめします。
2023年9月1日
相場の見立て・展望(9月1日付)
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
カブ知恵代表取締役。
1989年早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。前職のフィスコ(証券コード3807)では執行役員。フィスコを代表するマーケット・アナリストとして活躍。退職後に同社のIPOを経験。2005年にカブ知恵を設立。歯に衣着せぬ語り口が個人投資家に人気。雑誌「宝島/夕刊フジ/ZAIオンライン/トレマガ/あるじゃん/ダイヤモンドマネー/マネーポスト/日経ビジネス/エコノミストマネーザイ」をはじめ多方面に活躍中。
- 証券会社のディーリング部に在籍し、株式売買の経験があるものを証券ディーラーと呼称しています。