ウクライナ軍が米英製のミサイルでロシアを攻撃したことや、米政府がウクライナへの対人地雷の供与を認めたことへの対抗措置として、ロシアのプーチン大統領は21日に中距離弾道ミサイルを発射したと発表しました。このように、ウクライナとロシアの戦闘が激化して、地政学リスクが高まっています。しかしながら、現時点においては、NATO(北大西洋条約機構)とロシアとの直接的な戦闘の可能性は極めて低いとの見方から、米国金融市場や、原油先物市場での動揺は確認できていません。
実際、ウクライナ軍が、ロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)でウクライナ領を攻撃したと発表した、21日のNYダウは続伸し、前日比461.88ドル(1.06%)高の43870.35ドルでした。また、ナスダック総合株価指数は小幅ながら反発し、同6.28ポイント(0.03%)高の18972.42ポイントでした。なお、この日は、前日に米司法省が裁判所に傘下のグーグルのインターネット閲覧ソフト「クローム」事業の売却を含む是正案を提出したことで、アルファベットが4.74%下落しました。一方、前日夕に市場予想を上回る四半期決算を発表したエヌビディアは、次世代AI半導体の「ブラックウェル」の販売が今後の株価の押し上げ要因になるとの期待から、0.53%高で取引を終えました。
米ハイテク株に関しては、米長期金利が高止まりしていることが、上値圧迫要因として意識されています。21日の米10年物国債利回りは前日比0.01%高い4.42%でした。トランプ次期米大統領による減税や規制緩和がインフレ圧力を高める可能性が高いため、FRBの利下げピッチが鈍るとの見方が強まっていることが、米長期金利高止まりの主因です。ちなみに、20日には、ボウマンFRB理事が「インフレ鈍化が停滞しているようにみえる」と述べましたし、シカゴ連銀のグールズビー総裁は21日、「利下げペースを遅くするのが理にかなうかもしれない」と話しています。
一方、日本の政策金利に関しては、日銀の植田和男総裁が、21日、「(金融政策の運営ついて)金融政策決定会合ごとにデータを判断して見極める」、「(トランプ次期米政権誕生後の米国経済については)新たな政策を発表次第、日銀の経済見通しに取り入れていきたい」などと話しました。つまり、現時点においては、12月18~19日に開催する金融政策決定会合での追加利上げを否定していません。このため、市場は次回12月の会合での利上げを警戒しています。ただし、仮に12月の会合で利上げが見送られたとしても、私は、来年1月23~24日の会合での利上げの可能性は高いとみています。というのは、日米金利差が意識され、足元の為替市場で円安傾向が続いてるいるため、日銀は、輸入物価上昇による我が国経済への悪影響を懸念している可能性が高いからです。
日経平均に関しては、円安にもかかわらず、国内製造業の業績が冴えないことを背景に、調整色が強い状況が続いています。ただし、現在の相場水準は、バリュエーション面からは割高ではないため、下値は堅い状況です。ところで、11月第2週(11〜15日)の投資部門別株式売買動向では、生損保が16週連続、銀行が6週連続で売り越しています。これは、政策投資(株式の持ち合い)の解消と、多額の含み損を抱える外国債券の損失処理への対応で、保有株式の益出し売りを出していることが主因と考えています。そして、国内金融法人から売りが一巡すれば、日本株の需給は大幅に改善すると考えています。それまでは、需給面からも日本株の上値の重い状況が続くことを覚悟しています。
物色面では、足元業績が冴えない製造業の不人気は続き、今期業績が好調なバリュー系非製造業株(不動産、建設、倉庫、電鉄、そして、金融業など)が選好されるとみています。なぜならば、好業績の非製造業銘柄群に関しては、国内外の機関投資からの押し目買いが最も期待できると考えているからです。
2024年11月22日
相場の見立て・展望(11月22日付)
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
- 情報のプロフェッショナル
- 藤井 英敏
カブ知恵代表取締役。
1989年早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。前職のフィスコ(証券コード3807)では執行役員。フィスコを代表するマーケット・アナリストとして活躍。退職後に同社のIPOを経験。2005年にカブ知恵を設立。歯に衣着せぬ語り口が個人投資家に人気。雑誌「宝島/夕刊フジ/ZAIオンライン/トレマガ/あるじゃん/ダイヤモンドマネー/マネーポスト/日経ビジネス/エコノミストマネーザイ」をはじめ多方面に活躍中。
- 証券会社のディーリング部に在籍し、株式売買の経験があるものを証券ディーラーと呼称しています。